「デジタルデトックス」という言葉に背中を押され、思い切ってスマートフォンの電源を切ってみた夜。
通知音から解放されたのは良いものの、ふと訪れた深い静寂の中で、「さて、何をしようか」と戸惑ってしまった経験はありませんか?
常に先のことを考え、誰かのために決断を下し続けているあなたにとって、「何もしない時間」は、かえって心がざわついてしまうものかもしれませんね。
せっかくの静かな夜に、また「意味のあること」を探してしまう。
そんなご自身に気づいたときは、どうか自分を責めないでください。
今夜は、無理に有益な時間の使い方を探すのではなく、文学という名の優しい処方箋に頼ってみませんか。
辻村深月さんの小説『ツナグ』とともに、あなたの心に静かな余白を生み出す、とっておきの過ごし方をご提案させてください。
スマホを手放した静寂の中で、行き場を失う心

リーダーという立場にいると、一日の中で「自分のためだけの時間」を見つけるのは、とても難しいことですよね。
日々の営みの中で、常に誰かの期待に応え、たくさんの重い責任を背負って歩いていることでしょう。
だからこそ、意を決してデジタルデトックスをしてみても、急に空っぽになった手のひらと時間に、少しの心細さを感じてしまうのは当然のことなのです。
「この時間を使って、明日の準備をすべきではないか」
「何もしていない自分は、立ち止まっているのではないか」
そんなふうに、無意識のうちに自分を急かしてしまっていませんか。
「意味のあること」をお休みして、物語の温度に触れる

画面を伏せたあとの時間は、必ずしも「何か有意義なこと」で埋める必要はありません。
ビジネス書や実用書を開いて新しい知識を得るのも素晴らしいことですが、疲れている夜には、それが「もっと前に進まなければ」という新たなプレッシャーに変わってしまうこともあります。
そんな夜こそ、ただただ物語の温度に触れる時間を自分に許してあげてほしいのです。
役に立つかどうか、明日すぐに結果が出るかどうか。
そんな目に見える成果の世界から遠く離れた場所へ旅に出ることは、張り詰めた心の糸をゆるめる、とても贅沢な過ごし方なのです。
生と死が静かに交差する優しい世界。辻村深月『ツナグ』

今回、静かな夜のお供としてご紹介したいのが、辻村深月さんの小説『ツナグ』です。
一生に一度だけ、生者と死者を再会させてくれる使者「ツナグ」。
その後継者として生きる高校生の歩美を通じて、遺された人々の後悔や愛情、そして見えない絆が、とても繊細な筆致で描かれています。
突然この世を去ったアイドルに救われていた女性。
素直になれず、友人に冷たい態度をとったまま永遠の別れを迎えた女子高生。
失踪した婚約者を待ち続ける男性。
彼らは「ツナグ」という不思議な窓口を通して、もう二度と会えないはずだった人と、一夜限りの再会を果たします。
この本を開くと、現実世界のせわしない空気はスッと遠のき、生と死が交差する、静かで優しい世界に深く包み込まれるはずです。
誰かのために奔走するあなたへ贈りたい言葉

物語の中で、使者である歩美の祖母が、こんな言葉を口にする場面があります。
「(使者は)人の望みを叶えることはできるけど、自分のための依頼は誰も叶えてくれないってことだ」
これは、生者と死者を繋ぐ特別な使者の宿命を語ったものですが、どこか、日夜誰かのために尽力しているリーダーのあなたの姿と重なる部分があるのではないでしょうか。
誰かの痛みに寄り添い、誰かの願いを叶えるために走り続ける。
けれど、自分自身の本当の弱音や心のSOSは、誰にも見せないように、心の奥底にしまい込んでしまう。
『ツナグ』に登場する人々もまた、不器用なまでに誰かを想い、抱えきれない感情に揺れ動いています。
彼らが死者との再会を経て、不完全な自分を少しずつ許し、前を向いて歩き出していく姿は、読む者の心を静かに洗い流してくれます。
「ああ、もっと弱音を吐いてもいいし、立ち止まってもいいんだ」
そんなふうに思えたとき、あなたが無意識に着込んでいた重い鎧が、ふっと脱げ落ちるのを感じるはずです。
紙の手触りと活字がもたらす、あなただけの聖域

デジタルデトックスの夜、何をすればいいか迷ったら、ただ静かに、この美しい装丁の本を開いてみてください。
紙の匂いを嗅ぎ、活字をゆっくりと目で追い、静かな部屋にページをめくる音だけが響く空間。
それは、他の誰にも邪魔されることのない、あなただけの神聖な余白です。
物語の世界を旅して現実に戻ってきたとき、心には澄んだ静けさが広がり、いつの間にか深い眠りへと優しく導かれていることでしょう。
ぜひ、あなたの寝室のサイドテーブルに、この優しい一冊をそっと置いてみてくださいね。
\ 心に染み入る感動の連作長編小説。 /
「何もしない時間」を優しく満たす、ことばの贈り物

今日ご紹介した『ツナグ』は、あなたの心に余白を生み出すための、ほんの入り口に過ぎません。
文学の世界には、あなたの孤独にそっと寄り添い、見えない疲れを癒やしてくれる言葉が、まだまだ星の数ほど眠っています。
本とことばのアトリエの「ブックコンシェルジュの選書&カルテ」では、日々プレッシャーの中で闘うあなたのために、主宰がさらに深く、心に効く一冊を厳選してお届けしています。
また、活字を追うことさえ少し疲れてしまった夜のために、耳から癒やしをお届けする会員限定ポッドキャストもご用意しております。
静かな語り口と、心を落ち着かせる音楽とともに、あなただけの「余白の時間」を一緒に過ごしませんか。
どうか、今夜はゆっくりと深く眠れますように。
あなたの心に、優しいことばの魔法が届きますように。


